「もっと考えろ」と言われたら:言われたことを鵜呑みにするのでなく、その行動のもうひとつ奥の意味を考えてみることで広がる深さ

すでに現場を離れて久しいけれど、いまだにトレーナーの方々から相談を受けることも少なくありません。現場から離れた人間だから伝えられることもあるのかな、と思いながら自分の思うことをお話しさせていただいています。基本的にみんなとっても真面目だから人に関わる仕事をしているのだと思います。

それはトレーナーにかかわらず、インストラクターのみなさんも一緒です。誰かのためを思うから「もっとこうしたほうが」「もっとこうするべきだった」。力になれない自分を不甲斐なく思ったり、情けない気持ちになったり、時に頑張ろうと胸を張ってみたり。

でもどこか疲れてしまって、心が弱くなってしまったり。そして選手やクライアントの言葉に励まされて、またやる気が芽を見せて。そんなことの繰り返しかもしれませんね。

凹まされるのも誰かからの言葉だったりしますが、それを救ってくれるのも、また誰かからの言葉だったりします。

若手トレーナーの悩み「もっと考えろといわれます」

昨日は、セッションを受けてくれている中で若手トレーナーの子が悩みを相談してくれました。その中で、具体的なことはその現場にいるわけではないし、見続けているわけではないのでわかりませんが

「もっと考えなさい」

そう言われる時は、表面上のことだけを見習っていることが多いように思います。でもそれらの行動には必ず理由があるはずです。言われたことをそのままに行うのではなくて

「なぜそれを行うのか」

その理由を考えていますか?

先日ご紹介した、邦子さんの新著『トップアスリートだけが知っている「正しい」体の作り方』ではこのような例が書かれていました。

 名刺の受け渡しのマナー研修で「名刺は両手で渡しましょう」などとロールプレイをして念を入れていても、あとで、講習を受けた新入社員の動作を見ると、書類を片手で渡している、お茶の出し方なども荒っぽいことが多いそうです。

これは基本を取り違い、根本が学べていないからです。名刺を両手で渡す本来の意味は「お客様、目上の方には丁寧に接する。丁寧さは両手を使うことで表現される」ということです。この基本を理解せず、名刺渡しのロールプレイだけを続けても、応用の利かない、形だけの、意味のないものになってしまいます。 (p.18)

https://kukunabody.com/kuniko-yamamoto-book-topathletes/『トップアスリートだけが知っている「正しい」体の作り方』by山本邦子 | Kukuna Body

スポーツの現場で、若手のトレーナーが遭遇するのはどのようなケースだろう

アメフトなどでの選手への水やりを例にとってみましょう。アメフトを見ていると、大柄な選手たちの中に、ウォーターボトルを持って走り回り、選手の水分補給に奔走している人たちを見ることがあると思います。

時にそれは「ウォーターボーイ(水やり係)」と揶揄されることがアメリカでもあります。でもここでプライドを持ってウォターボーイをやりきることができるかどうかはとても重要です。僕は以前、帰国して間もない頃に22歳以下男子ラクロス日本代表チームのアスレティックトレーナーを務めたことがありました。

その時に、誰よりも早く備品の準備をして、ウォーターボトルの準備をし、練習が始まったら選手たちのもとにその水を届けにいく、ということをやっていたらスタッフの子たちが青ざめた顔で

「森部さんはそんなことをしないでください!怒られてしまいます!」と飛んできました。

「なぜ?これは自分の大切な仕事だよ?」

そう聞くと

「以前、関わっていた方は『これは俺の仕事じゃない、俺にはもっと大切な仕事(選手に目を配る)があるからこういったことは君たちがやるんだ』と言われて」との答えでした。

スタッフが潤沢にいるような現場でしたら、経験あるスタッフの手を自由にしておくということは必要だと思います。でもそうでない現場で、その考え方はそぐわないと僕は考えます。

以前、専門学校で教えている方から「学生が水やりを嫌がる。選手が水を欲しているのに壁にもたれかかっていて呼ばれてからいく、というような感じでどうしていいのか、、、」と言われたことがあります。

そもそもウォーターボーイをただの水やりと考えているからそのような行動が生まれるわけです。

ウォーターボーイの意義はなんだろう

おそらく、その学生は選手たちが頼りにしてくれる、困った時に助けてを求めてきて自分がどうにかする、そんな華々しいものを想像していたのかもしれません。でも考えてもみてください。

自分がハードに練習をしていて、水が飲みたいと思う時に、壁に寄りかかっていて呼ばれるまで来ない人と、気付いた時にはそばにいて水を差し出してくれる人、どちらを信用していくでしょうか。また、アメフトなどの場合大柄な選手が群がっているので、外からはその様子がよく見て取れません。

その中を歩きまわれるウォーターボーイは、一番間近で選手を観察できる立場にいます。選手は大柄なだけではなく、ヘルメットをかぶっているために表情はわかりません。間近にいて、目をみることができるからわかることや防げることもあります。

そういった中で、一言二言会話を交わせば、その選手が今日はどのような調子なのか痛みを抱えているところはどうなのかそんな確認も同時に行うことができます。これにかかる時間はほんの2−3秒です。

こういった小さなことの積み重ねが信頼になっていくのだと思います。水やりは、選手の熱中症を防ぐために、ということは重点を置かれて教えられます。選手を守るためにとても大切なことです。

でももっと大切なことがあります。それは自分たちの「不慮の仕事」を減らすこと、です。スポーツ現場にいるなかで、命に関わるような状況は極力防いでいかなければいけません。熱中症のように意識が朦朧としてしまったり、命に関わるようなことは起こる前に防ぐのが鉄則です。

起こってしまったら、最悪の状況を回避するためにすべての力がその人、一人に注がれることになります。それはつまり、そのほかの人たちはおざなりにされるということです。その他の機能がストップしてしまいます。

それではチームは成り立ちません。

熱中症にかかわらず、怪我から復帰した選手、痛みを抱えている選手、少し疲労が感じられる選手などにおいても同様です。そういった兆候に気づき、水際で警報を鳴らし、伝達できる役割、それがウォーターボーイなのです。でもそれも「水欲しがってるだろ!いけっ!」

そう言われてやっているだけでは、単に「やらされている感」が強くなるだけで「なぜこんなことをやっているのだろう」となるのも無理はないかもしれません。そういったことは「自分から気付いてほしい」というよりも「気づかない奴が現場でしっかりとしたトレーナーとしてやっていけるわけがない」。

そう指導する側の人間は考えがちですが、どのようにしたら「伝わるのか」、その行動の一つ奥の意味をお互いに伝える、汲み取る努力というのは必要なのかも知れません。

阪急・東宝グループ創業者の小林一三はこういったと言います。

下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ。

すべての行動には意味があります。トレーナー、インストラクターであれば、一つの運動や動かし方の指導などに置いても、表面上の形や動きを真似しているだけでは表面的な違いはでてくるかもしれませんが、根本的な改善にはつながりませんし、自分自身の深みにもなりません。

なぜ、その動きを選んだのか

なぜ、そういった導き方をしているのか

なぜ、その言葉を選んでいるのか

なぜ、そのような考えに至ったのか

目の前で起こっているおとだけでなく、その裏側にあるものを感じ取ろうとしてみること。そして聞いてみることそれが自分の深みを出していくことにつながっていくのではないかと思います。

ではまた

べぇ

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それではまた

森部高史

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ABOUTこの記事をかいた人

株式会社 Pono Life(ポノライフ)代表取締役 / Kukuna Body主宰。 「人生の節目に出逢うセラピスト」として多くの方の人生の転機に立ち会う。中高一貫校の英語科教員、部活動顧問を経て、アメリカの大学院に進学しアスレティックトレーナー(ATC)に。アメリカの様々な地域の大学でフルタイムスタッフとして勤務し、2012年帰国。【からだはこころのいれものだから】という考えを大切に、身体と心のバランスを大切にするボディーワーク、ロルフィングを中心に日々クライアントが自分軸で生き、自分自身の人生に彩りを添えていく為のお手伝いをしている。オフィスは麻布十番。2015年より一女の父。